* スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 9:墓
 街中の人々が広場に行っているので、それ以外はかえって静かだった。
 坂道はやがて山道となり、ペキニを取り囲む城壁のような山並へと分け入る。
 途中、道端の花をカリフは手折った。
(こっちは・・。)
 思い当たる場所があった。
 ペキニの街の人々の墓所がある。
 どんな季節にも花が絶やされないそこは低い山の頂上が平らに開けていて、ペキニの街と外と両方が見渡せる眺望のいいところだった。
 カリフはその墓所の奥へ奥へと入ってゆく。一番奥の、外が見渡せるところの小さな墓の前まで来て、やっと立ち止まった。
 リウは手前の墓の陰で見守る。
 そのずっと後ろにイナの姿があった。
 ひざまずいて花を手向けると、ずいぶん長くカリフは祈った。立ち上がってからもしばらく離れようとしなかった。
 振り返った時、リウたちは見た事のないカリフの顔を見た。
 そこにはさいなまれ、傷つき、疲れたひとりの男がいた。
 とても声をかけることはできなかった。
 想いに浸って歩くカリフはリウに気づくこともなく、元来た道を下っていった。
 リウはカリフが祈った墓の前に立った。
 そこには遠慮がちに名前が彫られていた。
 それを読んでリウは小さくあっと声をあげた。
 イナがその肩に手を置いた。
「どうした?」
「イナ!」
 そういってリウは墓の文字を示した。
「えっ!?」
 そこにはかろうじて小さく『カ』『リ』『フ』と読める文字が並んでいる。
「どういうことだ?」
「さあ・・。」
 ふたりとも寡黙になりながら道を下った。
 祭りは広場から街中へとひろがり、街はにぎやかさを増していた。
 
 祭りのパレードも出店も、例年通りにぎやかに華々しかった。やがて来る大きな変化をまるで感じさせない。
 陽が暮れてくるとあちこちにたいまつが焚かれ、司祭宮の広場で祭りの最後を分かち合うために、酔いしれた人々がまた集って来ていた。
 今年の夏至祭の最後がいつもと違うのは、カリフの竜笛があることだ。
 バルコニーにタイラオラ・オーネンを迎えて、司祭宮の入り口の石段にカリフはまた白い衣装で上った。
 墓所にいた時とはまた別人のようにいつもの穏やかな顔で、笛を口にした。
 カリフを筒として吹き現わされる哀切で遥かな響きは、天の意を伝え、地の理を現わし、人の情をゆさぶる。
 その大きな営みがまるでまさに竜が舞うようである。そこにいる人々に、潮が満ちてきてきていることを感じさせるのには十分なひとときだった。
 やがて来る大波を、人々はそれぞれに懸命に受け入れようとしていた。
2006.08.03 Thursday * 14:09 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
* スポンサーサイト
2008.07.25 Friday * 14:09 | - | - | -
Comment









Trackback URL
http://final-heart.jugem.jp/trackback/9
<< 8:夏至祭 | main | 10:レモ >>