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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 8:夏至祭
 夏至祭の当日の朝は花火が上げられる。
 祭りにふさわしい素晴らしい空だった。
 カリフが弓を披露するのは、祭りの幕開けの馬駆けだった。馬で駆けながら用意された的に当てるものだ。
 儀式なので、カリフは神聖な白の衣装をまとって群集の前に現れた。
 誰もがその姿に魅了された。
 あちこちでささやき声が聞こえる。
「あれは誰?」
 気合いのこもった声をひとつあげると、群青色の髪をなびかせて馬を下半身だけで操って駆け出す。そして、白い弓を大きく引いて司祭たちの居並ぶ中、的へと放った。
 ターン!
 乾いた音が響き、的の真ん中に矢は突き立てられた。
 群集はどよめいた。
 それを合図に夏至祭が始まる。
 馬の手綱を引いて、ゆっくりとカリフはタイラオラ・オーネンの元へと歩み寄った。そこでひざまずいて頭に祝福を受け、ひとことふたこと言葉を交わして馬を人に預けると、手袋を取りながら歩いてきた。
 リウたち生徒に気づくと満面の笑みを浮かべて手を振った。
 生徒たちは自分たちの先生の晴れ姿が誇らしかった。
 若い娘たちが幾人もカリフの後を追っていく。
 リウは、自分のむねの奥がわずかにちくっと痛むのを感じた。
 
 祭りの佳境で、タイラオラ・オーネンの説法がある。街中のものが司祭宮の広場に集まり、その年の大事な説法に耳を澄ませる。
 午後一番のその説法のために、リウたちも人にもまれながら広場で待っていた。
 その後ろにいつの間にか人に紛れるような色の服に着替えたカリフが、立っていた。
 あれだけ華のある人物なのに、誰にも気づかれず空気のようにも場に立てる人だと、リウは感心した。
 司祭宮のバルコニーからタイラオラ・オーネンが姿を見せると群集は大きく歓声をあげ、そして誰が音頭を取るわけでもないが、さっと水を打ったように静まった。
 オーネンはひとつせきばらいすると、語り出した。
「今日のこの日までに、大人達にも学問所の生徒達にも伝えてきたことだが、ついに1万3千年目の夏至を迎えた。大いなる営みは止むことはなく、半年も待たずにおそらく地滑りは起こるであろう。だが、みな、おそるるな。それは大いなる祝福であり、偉大なる愛しみである。ひとがこの世に生を受けるのは人の闇を身を持って知り、さらにその奥のほんとうの光にまみえるためである。もしも自らの闇に向き合えず、成長することができないとするなら、そうできるようにと用意される仕組みがある。地滑りとはそういった仕組みのことである。選別されて捨てられることではない。たとえ、どんな状況に陥っても、信ぜよ。それがその人間の成長にとってのなにより一番の舞台であると。そしてひとりの人間の成長とは、世界が待ちこがれる世界への福音である。その使命を負い、たとえ弟のくにに生きることとなっても、そのむねの内に通じておる『永遠の光』を忘るるな。弟のくにで兄になることほどの試練はない。だが、弟たちよ。そなたたちにはあまたの兄がついておる。たとえ手は差し伸べられずとも、そなたたちの『永遠の光』を誠から信じ、未来永劫待っておる。それが、兄弟というものだ。絶望の淵で聞くがよい。兄の声を。そしてまた、兄と弟がひとつとなり、ふたつとないくにで再会しようぞ。この1万3千年目の夏至にあたり、『永遠の光』をここから分かとう。」
 そういって、タイラオラ・オーネンは後ろを振り返った。
 司祭に掲げられて現れたのは、いつもなら司祭宮の塔のてっぺんに祀られている『永遠の光』だった。
 オーネンはみなに向けて語った。
「このともしびを灯すのはここにいる人々の想いである。ともに願い、祈ろうではないか。すべての人のむねにこの火が灯ることを。」
 群集はともにただひたすらひとつのことを祈った。その祈りは大きなうねりとなって掲げられている『永遠の光』に押し寄せていった。
 それを受けて『光』はひときわ大きくまばゆく輝き、そしてはじけた。
 花火の火の粉のようにそれは人々のむねに散った。
リウのむねにもそれは届き、砂金の粒のようなそれは清々しい風のように響いてむねの奥にしみていき、そこから透き通った泉のようなものがこんこんと湧き出ずるのを感じた。
(このむねにあの永遠の光が・・。)
「今、届いた光は呼び水である。元々すべての人の中に湧く『永遠の泉』を呼び覚ます。忘れそうになる時、これを思い出すがよい。」
 そういって人々の歓呼の中、タイラオラ・オーネンは司祭宮の中へと退いていった。
 振り向くとカリフはいなかった。
 リウは無意識に探して目を泳がせた。
 広場の北西の上り坂の小道をひとり上って行く背中を見つけた。人々の間をすり抜け、後を追う。
 それに気づいたイナも後を追った。
2006.08.02 Wednesday * 15:17 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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2008.07.25 Friday * 15:17 | - | - | -
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