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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 51:永遠の光
 リウたちは振り返った。
 人ひとり這って通れる横穴からエケネンが立ち上がったところだった。
「おまえ、リウだな?最後の心とわめくのはおまえくらいだ。生きてやがったのか。」
「おまえがエケネンか?玉石の鉱脈を自分の欲のために掘るのか?」
 イハンは問うた。
「そうだ。それがおれの最後の心だ。この世界で一番高く売れる石だ。ここが鉱脈か?」
 
 間髪を入れず、イハンはリウのたいまつを奪ってエケネンに襲いかかった。
 ふいを突かれて目を眩ませられたエケネンの、今度は剣をイハンは奪った。
 どこにそんなに体力があったのかと思うくらい、形相を変えたイハンの動きは凄まじかった。
 獣のように吠えて剣をふりかざし、次の瞬間エケネンにめがけて剣はまっすぐ落とされた。
「あうっ!!」
 その時、エケネンではなく、リウの大きなうめき声が岩盤に響き渡った。
 イハンがふるった剣をリウが素手で受け止めていた。
 イハンは驚いて剣を離すと後ずさった。
 剣はリウの手から落ちて岩盤の上で鳴り響いた。
 リウの手から大量の血が滴った。そしてリウは青い顔をしてゆっくりと、言葉もなくその場に静かに崩れ落ちた。
 倒れていたエケネンはその光景を凝視した。
「・・なぜだ?」
 イハンとエケネンが同時に声を発した。
「なぜおまえがわたしの剣を止める!」
 イハンが叫んだ。
 低くうめきながらリウが何かを言った。
 イハンが抱き起こす。
「・・父さん・・。」
「リウなのか!おまえはリウか?」
「・・エケネンを・・殺さないでくれ・・。エケネンの中の・・最後の心は・・そうじゃない・・。そうじゃないんだ・・。父さんに誰かを・・殺して・・ほしくない・・。父さんの・・最後の心も・・そうじゃない・・。」
「ばかな!いったい何をしてる!こいつの中には悪しかない。殺してやるのが救いというものだ!」
 イハンの悲痛な声が岩盤に響いた。
(・・リウはふたりとも助けたかったの。)
 イハンとエケネンはハッと顏を上げた。
「だれだ!」
 エケネンの傍らに、白い少女がうっすらと灯っていた。
(兄さん・・。やっと声が届いた。ずっと心を閉ざしていた・・。)
「おまえはだれだ!」
 エケネンが声を上ずらせた。
(妹のエカ。イリュの娘。)
 そういってエカはエケネンの元にいき、そっと全身で抱き締めた。
(イリュが、そうしたかったこと。替わりにするわ。)
「ばかな!あいつはオレを捨てたんだ!あいつのせいで口に言えない辛酸をなめたんだ!許すものか!」
(兄さんはその絶望を背負うためにイリュの元に来たの。遺跡守のおきてで離れなければならなかった。イリュはその痛みから逃げることなく、背負って往ったわ。もうこの世にはいない。)
 エケネンの顔から色が失われていった。内側からにじみでるなにかが顏をゆがませた。
 たった今、怒りと哀しみをぶつける相手を失ってしまった。すると憎しみだとずっと思ってきたのに、胸にぽっかりと穴が開いて嵐のように心が震えた。
(これはいったいなんだ?)
 その心をエケネンは初めて見た。
 もとめてももとめても得られない泣き声が、穴の底からマグマのように湧き起こる。
 エカの祈りに応えるように天井の岩盤がそこはかとなくきらめいた。
 うっすらとしていたエカの輪郭ははっきりと実在を帯び、抱擁は祈りとともにただただエケネンの深い穴にあたたかい息吹きを送り続ける。
「・・この男にも・・心があるのか?・・玉石鉱が光っている・・。」
 言葉を失っていたイハンが呆然とつぶやいた。
 リウは遠くなる意識の底からイハンに語りかけた。
「エケネンの・・もとめてばかりいる心・・そのもっと・・もっと・・もっと奥に・・ああ・・あれは・・そうだ・・一番奥だ・・その・・苦しみを・・誰にも与えたくない心・・よきことを・・ひたすら・・与えたい心・・あんなに奥に・・見て・・息づいて・・る・・。」
 リウのからだから力が抜けてリウは瞳を静かに閉じた。
 エカはうなずいて言霊を唱えた。
「レアチサ ニノモルケヅツミスス テッカムニリカヒ デカナノミヤ(闇の中で光に向かって進み続ける者に幸あれ)」

 ラグたちは遺跡が蘇るのを見た。
 こころになんともいえないあたたかく清々しい風が吹くのを感じた。
 イナがサリの元へ駆け寄ってきた。
「イナ!?どうしたの!どうしてイナがここにいるの!」
「ここは兄のくにだ。」
 そう言ってイナはサリを抱き締めた。
「兄がもどってきたの?何が起きたの?リウは?」
「剣を受けたんだ。たくさんの血を流して倒れた。」
「剣で!ね、死んじゃうの?だれか助けて!イナ!オーネンなら助けてくれる?ぼく呼んでくる!司祭宮に行けばいいの?」
 サリは駆け出した。
「サリ!待て!こっちだ。オレも行く!」
 そう言ってイナは遺跡の扉のひとつを開いた。
 そこは司祭宮だった。
 サリは走った。制止する司祭をすり抜け、内なる回廊に突進し、転げるように清めの間に飛び込んだ。
 そこに誰もいないと見てとると、長いらせんの階段を駆け上がった。
 牛牙の扉に泣きながら全身でぶつかっていく。
「開けて!開けて!お願い!ぼくのいのちあげるから、リウを助けて!お願い!オーネンに会わせて!」
 扉は音もなく開いた。
 永遠の光は灯っていた。
 見たこともないほど、美しく燃え上がっていた。神聖な透き通った薔薇色が真ん中に揺らめいている。
 オーネンは両手をひろげてサリを迎えた。
「よくもどった。」
「オーネン!リウを助けて!!」
 サリはそう言ってオーネンの胸に飛び込んで泣いた。
「そなたのそのひたすら他を想う心。それがリウがみなに響かせた最後の心だ。」
「リウは?」
 オーネンは微笑んだ。
「大丈夫だ。いのちは灯っている。」

 闇の中でリウはカリフにただ謝った。
(・・先生。オレは何もできなかったよ・・。)
 遺跡の一室にリウは寝かされていた。
 気づくと目の前にイナがいた。
「リウ・・。おまえ、カリフみたいな髪の色をしてるな・・。カリフの言葉を伝えるぞ。・・逃げないでくれて、ありがとう、だ。」                  

                                〜完〜





2006.09.15 Friday * 14:24 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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