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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 49:涙
 リウは身軽さが幸いしてすぐに綱で崖を上下することを覚えた。
 物見にも立つようになった。
 崖に削られた小さな空間から山越しに砂漠まで眺められる物見所があった。
 風に短く切った紺色の髪をなびかせる。
 イハンは谷に連れてこられてすぐはやはりよく発作を起こした。夜はうなされ、食も細った。
 リウは一切自分のことを話すのはやめ、イハンとも呼ばず、ただサムスの世話をした。
 エサが登ってきた。
「最近はサムスはどうだ?」
「前よりは落ち着いてきた。」
「仕事はできそうか?」
「ああ。その方が気が紛れると思う。」
「新しいところを掘ってる。サムスに見てもらいたい。」
 そう言ってエサは遠くを見ているリウの横顔をしばらく眺めてから、問うた。
「何があったんだ?」
 リウは振り返った。
「どうしてサムスは落ちたんだ?」
 リウはエサの顏を見つめ、それから前を向いて砂漠を見るような瞳をして言った。
「オレが落としたようなもんだ。」
「そうなのか?」
「そうだ。」
 エサは黙り、それ以上は聞かずに綱を滑っていった。
 胸がわしづかみにされていた。背骨が氷のように冷えて苦しかった。
 風は髪をすくようにさわやかに過ぎてゆくが、リウの過去は流れ去ってはくれない。
(父さんにとっては生き地獄かもしれない・・。)
 鳥が舞っていた。高い空から見ると、何が見えるだろう。
 リウは泣いた。
(大好きな人を傷つけて・・苦しめて。オレに償えることはなんなんだろう・・。どうやって償えばいいんだろう・・。どうやって・・。)
 今までに流したことのないような滝のような涙がとめどなく落ちた。胸につかえていた大きな涙の固まりを吐くように。
 耐え切れず、膝をついた。
 胸の底が剣で刺されるように痛かった。
(誰も傷つけたくないのに!・・・)
 嗚咽はしばやく止まなかった。
 小刻みに震える肩を自分で抱き締め続けた。
 
 四半時もしただろうか、ようやく息が通ってきた。
 哀しみを吐いた後の不思議なけだるさと脱力感を味わっていた。
 静まってゆくこころは泣き疲れたからだの奥に、まるで重たい鎧を脱いだように何かがあたたかく灯り出したのを感じていた。
(オレはこんなに父さんを愛してた・・。)
 タリの微笑みが浮かんだ。
(母さん・・。)
 イナの顔、カリフの笑顔、オーネンの慈しみ深い瞳、サリの笑い声、レモの恥ずかしそうな顔、ラグとイルの顔が浮かんだ。
(知らなかった・・。オレの奥にこんなにもひとを愛しく想う想いがあったんだ・・。あまりにもその想いが強すぎてどうしていいかわからなかったんだ。人とうまくつながれない自分に怒りを駆り立てられていた・・。オレの剣は自分への怒りだ。剣を形づくったのは、オレの炎は、裏返せばオレのこの、人への想いの強さだったんだ・・。もとめて得られなくて泣いてきたのはそれだったのか?)
 鳥が鳴いた。
 空を見上げた。
 鳥はただ空を飛んでいるだけだ。
 なのに羽ばたきからいのちの喜びが伝わって来る。
 きれいだった。
 リウの瞳から違う涙がこぼれた。
 鳥に語りかけた。
(・・エケネンもそうなのか?・・)
 ゆっくりと立ち上がった。
(このオレのほんとうの想いの通り、生きてみようか。)
2006.09.13 Wednesday * 12:59 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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