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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 46:イハン
 その晩、リウは横になっても眠れなかった。
(この奥にイフー山の谷が通じてる。そこへどうにか行けないだろうか・・?でも、まずはレモだ。レモの方がうまくいかないと谷どころじゃない・・。だけど・・あれはほんとだったんだろうか?あれは父さんか・・?オレのことが分からなかった。それとも砂漠が見せた、あれは夢か・・?)
 3日経った。
 見張られていると言ったが、彼等の姿はどこにも見えなかった。
 なんの音沙汰もなかった。
 リウは新月になったその晩、みなが寝静まった後そっと洞くつを抜け出した。
(ちょっとだけ。ちょっとだけだ。これだけ暗い晩なら誰にも見られない。)
 手探りで崖の壁を伝って奥へと足を伸ばした。初めに辿ったような細い崖合いの道がやはりしばらく続く。引き返そうか迷いだした頃、その先に灯りが灯っているのが見えた。
 今度は司祭宮の清めの間くらいの広さの空間がある。
 そこには周りの崖にたくさんの洞くつが掘られていて、たいまつが焚かれていた。
 まるで小さな集落のようだった。
 その光景を壁際から隠れてみていたリウを、後ろから音もなく忍び寄った者がすばやく羽交い締めにした。
「何をしている?」
 覆面の男だった。
「・・逃げようと思ったんだ。人買いから。」
「逃げるなら逆だ。こっちは山脈の奥だ。」
「イフー山の?」
「ああ。残念だったな。やつは客だ。おまえが逃げるのを捕らえておいたとなれば商いも高く釣り上げられるだろう。縛っておけ。」
「ひとつ、聞きたいことがある。7年前にイフー山の崖から人が落ちてこなかったか?」
「7年前?さあな。たまに人だったようなものが落ちてることもあるがな。生きちゃあいまい。」
「いるよ。木に引っ掛かって落ちて助かったやつがいる。」
 髪の短い女が酒を飲みながらこっちを見ていた。
「いるのか!どこにいる?」
「なぜそいつを探している?」
「父さんだからだ。」
 女は一瞬黙った。
「あきらめな。」
「なぜ!」
「会っても無駄だ。」
「会わせてくれ!」
「連れてけ。」
 女はそう言ってもう振り向かなかった。
「なんでだ?どこにいる?なぜ会わせない?」
 初めにリウたちを案内した横柄な若者が、リウを洞くつのひとつに連れていって放り込んだ。
「おい!助かったのってどんな人間だ!」
「やっかいものだ。時々あたまの病が出る。とっくにお払い箱になってもいいくらいだが、運のいいやつだ。」
「運のいい?」
「山から落ちて助かるだけでも運がいいが、鉱石を見分ける目を持ってやがる。だからお払い箱にならずに済んだのさ。」
(父さんだ!)
 リウは激しく動悸した。言葉にならなかった。イハンは鉱石に詳しく、鉱山の鉱石師として働いていたことがある。
「朝になったらおまえの買い主に返してやる。おとなしくしてろ。」
(父さん!やっぱり生きてたのか?もしかしたら頭でも打って、オレのこと、忘れてしまったのか?)
 翌朝、リウは縛られたままラグのところへ連れていかれた。
「このやろう!どこへ行ってやがった!」
 ラグは本気で怒った。心配してくれたのだ。
「二度と逃げられないように縛っとけ。」
 若者はそう言ってリウをラグたちの前に突き飛ばした。
 彼が去ると、ラグは小声になって続けた。
「いったい何してたんだ。」
「すまない。奥へ行ってた。オレの父さんがどうやら生きてるらしいんだ。」
「なんだって?」
「イフー山から落ちたイハンが?」
 サリは驚いた。
 ラグとイルはイハンのいきさつを聞いた。そしてリウから砂漠で迷って出会った話が明かされた。

 その時、崖の入り口から口笛が鳴り、次々にリレーされて奥へと伝わっていった。
「なんだ?」
「誰か来たんじゃないか?」
 さっきの若者がもどってきた。
「商談だ。奥へ来い。」
「お前らはここにいろ。面が割れてる。」
 ラグはリウやイルに小声でそう言うと、ひとりで奥へと若者について行った。
 リウたちがじりじりと小一時間待っていると、ラグがもどってきた。
「読みが当たったぜ!レモだ!リウ、おまえのせいで値を釣り上げやがるんで時間がかかった。だが決まった。イル、おまえは金をとってこい。」
 イルは言われるが早いかもう駆け出していた。
「ラグ!」
 リウはラグに切り出した。
「オレはまたおまえから逃げ出したことにさせてくれ。レモを連れてみんなで遺跡へもどってくれていい。」
「親父のところへ行くのか?」
「レモはオレを殺していないことが分かる。今度はオレだ。オレにもチャンスをくれ。」
 だがラグはすぐには首を縦に振らなかった。
「たしかにそうだな。おまえは親父を殺したと思ってきたんだ。確かめねえと寝覚めがわるいだろう。だがオレたちがここにいたんじゃまたおまえは縛られてすぐ返される。いったん遺跡に帰ってからにしろ。それくらいの方が頃合がいい。」
 リウはしぶしぶうなずいた。

 イルの足は速かった。昼前にはもどり、ラグはそれを持ってまた谷の奥へともどった。
 そして両手と両足を鎖でつながれたレモを背負ってリウたちの元へもどってきた。
 目が落ち窪んで頬がこけ、憔悴したレモはラグの肩から下ろされた。
 瞳にいっぱい涙をためてリウを見る。
「何も言うな。オレはなんとも思っちゃいない。おまえの方がつらかったはずだ。」
 レモは堰を切ったように大声をあげて泣いた。
 リウは自分の指でレモの涙をふいた。
「遺跡へもどるぞ。レモを休ませてやりたい。」
 ラグはそう言ってリウにうなずいた。
 リウもうなずいて、立ち上がった。
2006.09.10 Sunday * 23:59 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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2008.07.25 Friday * 23:59 | - | - | -
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