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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 43:丘
 その時、アギが凛とした声を上げた。
「あたしの部屋を血で汚すのかい?おやめ!」
 そういってアギはエケネンに耳打ちした。
 エケネンはアギをじろりと見たが、あごを使ってリウのそばにいたリサイに指図した。
「リサイ、お前が始末しろ。連れて行け。」
 リサイは黙ってリウをこづいて引っ立てると部屋を出た。
 リウは脱力したようになされるがままリサイに連れられて宿を出た。
 しばらく歩いた。
 ふたりは一言も言葉を交わさず、黙々と街はずれの井戸のある丘まで来た。
 ここは昔戦争があった頃、負けた者が首を斬られて、その血をこの井戸で洗ったという街の者が忌み嫌う場所だった。
 そこでリサイはリウの縄を剣で切った。
 リウはそこへひざまずいた。逃げる気力も闘う気力も失せていた。
「おまえがやったのか?」
 剣を持ったままリサイは聞いた。
「いや・・。」
「レモがウソをついたのか?」
「・・いや・・。」
「・・泣いているのか?」
「・・レモは恐かったんだ。ほんとうに、ほんとうに、恐かったんだ・・。」
「自分が助かりたくておまえのせいにしたんだぞ。」
「それくらい、恐かったんだ・・。可哀相に・・。」
「あきれたやつだ。自分を裏切ったやつを可哀相に思うやつがあるか。やったのはだれだ。サシーか?」
「・・。いいさ。誰でも。」
 リウは自分の膝に顔をうずめた。
 リサイは黙った。 
 しばらく、言葉は途切れた。
 丘に風が吹き渡った。
 リサイは静かにリウの隣に腰を降ろした。
「おまえ、前に言ったな。」
「・・なんだ。」
「聞こえないのか?って。」
 リウは顏を上げた。リサイの顏を見た。
「聞こえるのか?」
「殺すな、と言ってる。・・カリフなのか?」
「兄だ。カリフかもしれない。」
「オレはおまえをここで始末したことにする。エケネンの目の届かないところへ行け。」
「もしばれたらおまえがひどい目にあうだろう?」
「仕方がない。この声を聞いちまったんだ。・・オレにはわかる。カリフだ。」
「だけど、レモを放っておくワケにはいかない。」
「あんなやつを助けるためにまた危険を犯すのか?エケネンをなめるなよ。」
「傷が深いのはオレじゃなくてレモだ。レモを助けないとあいつはオレを殺したと思って一生自分を責め続けるんだ。オレは恐怖で人の心を殺して自由を奪うなんて心の底から怒りを覚える。だけど、恐怖を人に与えるのはそいつが恐怖を持ってるからなんだ。エケネンはオレを理解できないから疑心暗鬼になった。どっちにしろオレを目の前から消したかったんだ。」
 そこまでリウは一気にまくしたて、ため息をついて続けた。
「・・レモだけが弱いんじゃない。エケネンこそそうさ。だけど、エケネンも、オレも、たいして変わらない。ケニも、サシーもだ。弱いから人を傷つける。オレだってエケネンの心を殺してきた。オレはエケネンの心を踏みつけて上に立ってた。そうなんだ。だからあいつはたまらなくなったんだ。ちくしょう!オレはそれを超えたい。」

 リサイはエケネンの元へもどった。なにくわぬ顏をして丘で始末したと報告して部屋を出た。部屋を出た後、アギに呼び止められた。
「ほんとうにやったのかい?」
 リサイは横目でアギを見た。
「あたしはあんたならリウを助けてくれると思ってエケネンにケニは気に入らないと言ったんだ。」
「どうしてオレがリウを助けると思ったんだ?」
「あたしは勘で生きてる。あたしは人の悪意がにおいで分かる。それはあたしがさんざ悪事を働いてきたから分かることさ。」
 今度はリサイはアギの顏を見て問うた。
「あんたはどうしてリウを助ける?」
「ふん。勘だよ。ぶっきらぼうなやつだが、あたしがずっともとめてたなにかがあいつの中にある。あんただってなにかあるから助けたんだろ?」
「それはなんだ?」
「さあね。」
2006.09.06 Wednesday * 12:44 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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