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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 41:アギ
 ふた月の間、ひと言も口をきかなかったエケネンが、その日の晩飯の時にリウを呼び止めた。
「お前、玉石を狙ってるな?」
 振り返ってリウは少し驚いた顔をした。
「玉石?ああ、忘れていた。」
「見え透いたことを。気を許したスキに盗って逃げるつもりでもどってきたろう?」
「まだ、持ってるのか?売ったんじゃないのか?」
「ああ、売った。ここにはない。残念だったな。」
「じゃ、いいじゃないかそれで。だいたい、また取り返す気なら最初から渡さないさ。」
 そう言ってリウは皿を下げようとする。
「待て。いったい何の目的でここに来た。誰が好き好んで盗賊のまかないなんぞする。おまえはそんな湿気た玉じゃなかろう。目的はオレの首か?」
 自分の理解を超えるものを目の当たりにして、少しじりじりといらだちを含ませでもするかのようにエケネンは問うた。
 リウはそれを聞いてかすかに唇の端を上げた。
「オレは今までそれを一度も考えてなかったことに感謝するよ。何かをするのに目的がなくちゃいけないのか?」
「当たり前だ!なんの得にもならないことをするやつがどこにいる!」
「だったらこうだ。ここにいれば食いっぱぐれがない。」
 リウはそう言って炊事場へ皿を片付けに行った。
 ウルが少し心配そうに言った。
「エケネンのカンにさわるなよ・・。だいたい誰だってそう思うだろ?わしだって不思議だ。」
「・・ああ。だけど、何かを突破するには、たぶん自分でも今まで思いつかなかったようなことをしなくちゃそれは見つけられないんだ。オレはエケネンの見込んでくれた通り、湿気た玉じゃないよ。」
 少し苦笑を含ませながらリウは皿を洗い始めた。

 荒くれ男どもが増えるにつれ、裏の慰み宿にも女たちが増えていた。
 その中にエケネンがタスチフで気に入って連れて来たアギという女がいた。アギは黒々としたボリュームのある巻き毛を垂らした、大きな瞳を持つ気の強い女だった。
 ひとりだけ上等の部屋をあてがわれ、そこへは誰も入れないことになっていた。
 アギの部屋へリウが食事を運ぶようになったが、姉御肌のアギは男まさりのリウと気が合うのか、次第に心を許すようになった。
「あんたはあたしと同じにおいがするよ。」
「どういう?」
「けっして籠には収まり切れない。おとなしそうにまかないをしてるけど、わかるさ。今に飛び立つ。」
「アギも?」
「あたしはここにいる。」
「なぜ?」
「あの人を置いていけないさ。」
「エケネン?」
「あの人もあたしと同じにおいがする。」
「・・どんな?」
「さびしい想いをした人さ。」
「・・なぜわかる?」
「うわ言でうなされる。昔、大事な人に置いてかれて泣き暮らしたようだねえ。よく似てるよ。この間も昔縁のあった者にゆかりのものだと言ってきれいな石を見せてくれた。きっとその大事な人だ。あんな石はそんじょそこらにはないね。虹色に光る。」
 リウはアギにお茶をつぐ手を休めた。
「虹色?」
「そうこのくらいの。」
 そう言ってアギはてのひらを広げた。
(ゆかりのもの・・?)
 玉石のことだとすぐにリウには分かった。
 だがそれがアギの言うエケネンの『大事な人』のゆかりのものとはどういうことだ?
2006.09.04 Monday * 11:36 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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