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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 40:お茶
 山から降りて来たリウは、森に寄るとまたすぐに出て行こうとした。
「どうするの?今度はどこへ行くの?」
 サリがきいた。
「今までやったことがないことをやってみる。そしたらオレがほんとうは何がしたくて何を望んでいるのかわかるかもしれない。それが最後の心かもしれないじゃないか。しばらくもどらないけど、心配するな。」
 そう言い残すとリウはひとりでエケネンの根城にもどっていった。
「なにしにもどったんだって?」
「まかないをやらせてくれだとよ。」
「エケネンも物好きだ。毒を盛られても知らねえぞ。」
 ダルたちはしばらく変な顏をしていたが、やがてそれも日常に忘れられて当たり前になっていった。
 元々この宿のまかないだったウルがサシーという陰気な少年に手伝わせて、老骨にむち打って荒くれどもの世話をしていた。
 リウはそのウルの手伝いをして、レモに教わったおいしいお茶を出すようになった。
 仕事を終えて帰ってきた彼等にすかさず熱いお茶を出す。
 最初は警戒していた連中も、飲んだ者が旨いと言うのを見て手を出すようになった。
 ウルはその曲がった腰を伸ばしながら言った。
「おまえが来てくれて助かった。エケネンは自分が食べたい時間に食べられないと機嫌が悪くて難儀する。まかないをやりたがるものは少ねえ。わしやサシーだけじゃとうてい追いつかねえ。」
 だが、サシーはいつもリウを不機嫌そうに見つめ、リウに何か聞かれてもろくに返事をしなかった。そして口を開けば誰かの悪口を言っていた。
 エケネンはウルからリウの働きぶりを聞かされても眉毛ひとつ動かすでもなかったが、どういうわけか初めからやめさせる事は無かった。

「リウ!・・リウ!」
 夜明けも間近のみなが寝静まった頃、半地下になっている炊事場の横のリウの寝床へ、外から呼び掛ける者があった。
 そばの鉄格子越しにリウは答えた。
「・・イル・・。」
「おまえ何やってるんだ?ふた月も。」
「・・まかないだ。エケネンたちの食事の世話だ・・。」
「なんだってそんなことをしている?オレにはさっぱりわからねえ。」
 リウは昼の労働で疲れたからだを引きずって表へ出て来た。
「そんなことをしてなんになる?なにがしたいんだ?」
「イル・・。オレは今まで誰かのために何かをするなんてこと、これっぽっちもしてこなかった。」
「だから?」
「だから、まず一番心を許せない人間のために何かをしてみようと思ったんだ。」
「なんだって?いったいなんでそうなる?極端なやつだな。やつらの世話なんかしてどうなる?」
「どうもならないさ。見返りなんて期待してない。オレもなんでやっているのかほんとはまだよくわからない。だが最近、お茶を1杯入れるごとに弓を引いているような気分になるんだ。やってみてわかったんだ。」
「?」
「何杯入れたか忘れた頃、それは来る。入れること自体がなぜか無性にうれしい。そして通じた、と感じるんだ。」
「何が?」
「その、うれしさがお茶に通じた。そういうお茶が入ったって。」
「さっぱりわからねえ・・。」
「なんでうれしいかわかるか?」
「だから、わからねえ。」
「入れる相手がいるからだ。たとえそれが誰だろうと。」
「それがオレたちじゃだめなのか?」
 リウは眉をそっと寄せるとかぶりを振った。
「そうじゃない。だけどひとより敵を多く作るオレには、その分ひとより試練が要るんだ。たぶん。そうでなきゃあ見えないものがある。自分の中の敵にお茶を入れるんだ。弓と同じだ。相手が敵なんじゃない。そこを超えないときっとほんとうにイフー山に登ったことにはならない。エケネンたち抜きにこの世界は変われない。オレの剣を闘うためではなくて違うことに使いたいんだ。」
「剣?」
「オレのこころには剣がある。その剣を人を刺すためでなく、オレのよけいなものをそぐために使うんだ。」
 ため息をついてイルが問うた。
「・・いつまでいるんだ。」
「ウルも困っているし、当分はいる。サシーが起きる。もう行く。」
「闇には染まるなよ。早く帰ってこい!」
 そう言ってイルは明けて来る空に染まりながら身をひるがえした。
2006.09.03 Sunday * 12:23 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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