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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 39:剣
 リウは7年足を向けたことのなかった、イフー山の山頂を目指した。
(父さん。オレはエケネンとちっとも変わらない。求め続けて泣いて来た。泣いている自分に気づかないで、人を傷つけてきた。そしてよけいに失ってきた。もう、オレは逃げないよ。泣いている自分から逃げないよ。)
 7年前と同じように吹き上げる強い風が吹いている。
 リウは山頂に座り込んで父さんを飲み込んだ底なしの谷底を見つめた。
 風が泣いているようだ。
(オレは、何を、求めているんだろう?)
 谷は答えない。
(どこに、最後の心がある?)
 リウはマントにくるまってただ、谷底の暗がりを見つめていた。
 いずこからかかすかに竜笛のような音が聞こえてくる。
(先生・・。)

 リウは思い出していた。今までの自分を。
 一番初めの記憶は3歳かそこらだ。
 他のこどもと遊んでいた。その子が持っていた土笛にただ触ってみたくて手にとっただけだったがひどく叱られて取り上げられた。
 リウは癇癪を起してその土笛をうばい取ると地面にたたきつけた。
 鳥の形をしていた黄土色のその土笛は粉々になった
 その子の哀しそうなゆがんだ顔と母さんの悲鳴を覚えている。
 
 少し大きくなった頃、学問所に入る前だった。
 母さんが作った鍋をぶちまけたことがある。
 その時は盗みを働いたと濡れ衣を着せられ近所の人にどなりこまれた。リウならやってもおかしくないと近所の人々に思われていた。
 だがその時、やっていないのに母さんは謝った。哀しかった。だからやった。
 その日はリウの誕生日だった。
 丹精込めて作った料理を台なしにされて、それをひとりで黙々と片付けるタリの背中を見てリウは外へ飛び出した。
 タリの背中が今も胸に痛い。
 イハンが亡くなってタリが一言も責めなかった時、リウは自分の業の深さを思い知った。
 哀しかった。沼の底にいるように哀しかった。
 
 イナさえ傷つけたことがある。
 サリを傷つけた時、イナはリウを許さなかった。
 サリののんびりしたところをリウは下に見るところがあった。走るのは遅い。寝坊ばかりする。
 それでもリウたちの行くところにどこにでもついてくる小さなサリを、ある日自分の中のいらいらがつのっていたリウはうとましく思って邪険にした。
「リウ!リウ!どうしてついていっちゃいけないの?」
「うるさいな。おまえの足じゃついて来れない。」
「ぼく後からいくよ。先に行っていいよ。」
「おいていけるわけないだろ?道に迷うくせに。」
「だいじょうぶだよ。ぼく西の丘は行ったことあるんだ。西の丘を目印にすればいいよ。」
「それもずいぶん前だ。やめろ。」
「ぼく行く。ねぇ、リウ、ぼく行く。行くってば。」
 言ってはならないことを言った。
「いいかげんにしろ!ぐずぐず言うな!もうたくさんだ!おまえなんかいなくなっちまえ!」
 いつも元気なサリが沈みこんで見たことがないほど哀しそうな顔をした。
 イナはリウを殴った。今までこの1度しかイナに殴られたことはない。
 だがリウは自分を押さえられず、言葉でイナを殴り返した。
「おまえのえらそうな態度も飽き飽きだ!」
 リウは逃げた。イスキニの森へ。
 結局一言も謝らなかった。
 だが、その日以来、二度とそんなことを口にするのをやめた。
 イナは翌日もまったく何もなかったかのように変わらずに迎えにきた。
 リウは心の中に涙がまたひとつぶ凍って、積もった。

 自分のこころに剣を感じる。
 その力は人を刺す。そんな自分を持て余し、リウはよく走った。
 触れる人をその剣で傷つけないよう、こころを閉ざし人から離れるようになっていった。
 けれどもその力はなくなるわけではない。
 この突き上げる力を役に立たせるにはいったいどうしたらいいのだろう?
 この力の源はいったい何なのだろう?

 幼い頃、父さんがリウに言った。
「おまえはほんとうは強いんじゃない。父さんにはわかる。だから父さんは心配なんだ。強がるのはよしなさい。素直なおまえでいいんだ。」
 リウのふるまいの奥に何かがあることを父さんは分かっていた。だからリウは父さんが好きだった。
(もしかしたら・・。)
 リウはふと思った。
(今のオレに足りないものがこの力のバランスをとって生かしてくれるんだろうか?)
 
 カリフは竜笛を吹いた。
 リウに届くように。
 エカは祭壇に向かい、玉石に祈りを捧げている。
 イナは明けてこようとする空を遺跡の頂上から望んでいた。
「リウ。夜明け前は一番暗い。夜明け前は一番冷えるんだ。そうだろう?だが明けてゆく。この空のように。おまえはひとりじゃない。みんな見守ってる。」
2006.09.02 Saturday * 12:35 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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