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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 38:泣き声
 エケネンの根城へは遺跡襲撃以来だった。
 扉を開けるとダルがいた。
「イルじゃねえか。そっちはリウか?ひでえ顔になりやがったな。売り飛ばすこともできやしねえ。」
 そう言って笑う。振り返って大声で怒鳴った。
「ケニ!おまえのおともだちが来たぜ!」
 奥にいたケニは鼻でせせら笑ってこっちを無視した。
「エケネンに会いたい。」
 リウがそう言うと、ダルはこっちに向き直って吐き捨てるように言った。
「どのつら下げて来てやがる。仕事をしねえやつには用はねえ。とっくに用済みだ。」
「半年分の仕事よりも大きいものを持ってきた。」
「何?」
「・・なんだそれは?」
 低い声がした。
 あのぞっとする冷たい瞳が暗がりからこっちを見ていた。
「こっちへこい。」
 リウとイルは言われるままエケネンの前に進み出た。
「はったりならどうなるか分かって来てるんだろうな?」
「エトナの玉石を知ってるか?」
 エケネンの眉がかすかに動いた。
「お前が内宮から取ったのか?」
「そうだ。オレがそれを内宮の壁から掘り出した。それを渡す前に聞きたいことがある。」
「なんだ。」
「あんたが望んでいることっていったいなんだ?」
「なに?」
「あんたのほんとうにほしいものはなんだ?」
 エケネンはかすかに口の端をあげると、言った。
「お前が今持っているそれだ。」
「なんのためにこれがほしい?」
「なんのためだと?それ以上つべこべ言うと今度は顔が首から離れるぞ。出せ。」
「あんたの中にも最後の心があるだろう?この石がほしい心の奥には何がある?」
「オレがこの世界を牛耳る。それが最後の心だ。わかったか。出せ。」
 エケネンはまわりの者にうながした。
 ダルやケニがリウとイルの腕をつかんだ。
 それを振払うと、リウは自分で胸に下げていた玉石を取り出した。
 そしてそれを惜し気なくエケネンに手渡した。
「これがエトナの玉石だ。」
 エケネンは微妙な顏をした。
「自分のものとすればいい。高く売ったっていい。それで満足か?」
 エケネンは無言でそれを自分のマントにしまうとリウをもう一度見た。
「お前はなぜこれをおれに渡した?」
「聞きたかったからだ。」
「何をだ?」
「あんたの心を。」
「・・。」
「あらゆる心の一番奥に、あらゆる心を捨ててなお最後に残る心があると聞いた。そしてそれを見つけることが、唯一兄のくにに到れる道だと。オレは玉石なんかどうだっていい。あんたに殺されるならそれはそれでしかたない。どっちみち、心が死にそうだった。からだだっておそかれ早かれだろう。だが、最後の心は死んでもなくならないという。そんなものが他にあるか?玉石なんて盗られたらおしまいだ。お宝をため込んだって、オレたちなんて死んだら終わりなんだ。ちっぽけな世界を牛耳ったって、そんなのは兄を遣わした者から見ればまばたきの間だ。空しい。空しいよ。あんたがいくら強くたっていつか死ぬ。」
「それだけか?」
「え?」
「それだけのためにここへ来たのか?」
「そうだ。」
 それ以上エケネンは何も言わなかった。
 かわりにダルがリウの腕をつかんで怒鳴った。
「ぐだぐだ言ってねえで、とっとと出ていきやがれ!」

「結局ただ、玉石を渡しに行ったみたいだな・・。」
「いや。」
「?」
「しゃべれただろう?」
「エケネンは何も言わなかったじゃないか。」
「わからなかったか?あのとき・・。あの、洞くつから吹く風が一瞬止んだ。オレにはエケネンは大きな赤ん坊に思えた。あの風は泣き声だ。求めて求めて得られなくて泣く泣き声だったんだ。」
2006.09.01 Friday * 14:42 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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