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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 37:緑桃
「ジウ、『最後の心』ってあると思うか?」
 リウは洗濯物を干すジウに尋ねた。
「最後の?ああ、オーネンがいっていたあれだね?」
「オレの中にもジウの中にもエケネンの中にもあるはずだ。ジウはそれがなんだか分かるか?」
「さあて。わたしにはわからないね。」
「ジウの中にはあるんじゃないかと思ったんだ。ジウはなにがあろうと朝になれば洗濯をする。オレはそれは『最後の心』に近いものだと思う。」
 ジウは面白そうに笑った。
「わたしは充分絶望しているよ。買いかぶらないでおくれ。それがリウはエケネンにもあると思うのかい?」
「ああ・・。でなければ『最後の心』とは言わないと思うんだ。」
「だったらエケネンとしゃべってごらん。」
「えっ?」
「しゃべったのかい?」
「いや・・。」
 思ってもみなかった。
「なにをしゃべったらいいんだ。」
「エケネンを見たままのエケネンと思わずに、緑桃だと思うんだ。」
「緑桃?」
「緑桃には皮がある。それをむくとあの暗い色の皮とはまるで違うみずみずしい実が現れる。」
「緑桃・・。」
「もっといえばね・・。」
 ジウはそこで区切った。
「実が腐っても、種を割ればあのえもいわれぬ香りの核があるだろう?それはいのちの元となってまたいのちを育むんだ。」
 リウの目が輝いた。
「ジウ!ありがとう!」
 ジウは言い終わると膝をついた。
「ジウ?」
「ああ、少し、疲れたんだ。すまないがそこまで肩を貸しておくれ。」
 施薬院の建物の壁のところまでジウを連れていくと、そこでジウは壁を背にして座り込んで大きく息をした。
「地滑りが起きてもう何日だい・・?」
「日を数えるのはやめたが、半年は経っただろう。」
「アタ。あの子は変わった。来た時は目がギラギラして怒りに燃えていたが・・。今はしっかりした目になった。よくやってくれる。」
「ああ。」
「もう・・いいだろう?」
 ジウがこっちを見て言う意味が分からなかった。
「わたしもアタと同じだった。地滑りが起きるまでは・・。こんなに年を取っても、アタと一緒だったんだよ。おかしいね。だけど、あれからやるだけのことはやった。もう・・休んでもいいかい・・?」
「ジウ!」
 リウはジウの手を取って叫んだ。
「待ってくれ!往かないでくれ!ジウ!」
「リウ。いいね。緑桃・・。」
 そう、まるで言い残すかのようにジウはつぶやいて眠るように力尽きていった。

 リウとイルとアタでジウを炎の向こうに見送った。アタは後から後からあふれだす涙に暮れていた。
「あんないい人はいない。実のにいちゃんよりずっとやさしかった。」
「自分はアタとよく似てたんだと言ってた。滑ってからやるだけのことをやったんだ、って。アタがいるから安心して往ったんだ。そしてオレにエケネンとしゃべれと言った。」
「ジウが・・。」
「エケネンがしゃべるものか。」
「だけど、オレだけでは『最後の心』にはたどりつけない気がする。」
 イルが、またかよという顔をしてリウを見た。リウが言う。
「何か近づく方法はないか?」
 しょうがないという調子でイルは合わせた。
「エケネンが会いたくなるような何かがこっちにあれば会えることは会えるだろう?」
「とっておきのお宝でもあれば、だな・・。」
 リウはドキッとして胸を押さえた。
「あ・・る。」
 ふたりの目の前でそれを取り出す。
 てのひらの上で透き通って、それは虹色をはなっていた。
「なんだこれ?」
「聖エトナの中心の玉石だ。」
 イルが目を見開いて信じられないというようにリウを見返した。
「それをエケネンに渡すのか?」
「渡すかどうかはわからない。ただ、いちかばちか、会って話すことはできるだろう?」
「ばかな!ぶんどられるに決まってる!そんな大事なものを取られてどうする!」
「それってどういうものなんだ?高く売れるのか?」
 アタが覗き込んだ。
「持ってみるか?」
「いいの?」
「ほら。」
 リウが無心に渡すのにとまどいながら、アタはそれを手にした。
「きれいだねえ・・。」
「胸にあててみるんだ。」
「?」
 言われた通りアタはそれを胸にあてた。
「・・・。なんだかわからないけど、気持ちいいね。どうして?」
「さあな。兄の心と同じ振動を持ってるのかもしれない。」
 イルがふと、腕を組んでつぶやいた。
「・・もしかしたら、何かの助けになるんだろうか?」
 小さく笑むリウの瞳の奥に、澄んだ紅い炎が灯ってきているのをイルは見た。
2006.08.31 Thursday * 12:06 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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