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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 36:泉
 リウは2日振りに森にもどった。
 昨日からイルが寝込んでいた。
 熱が高く、激しく吐いてすっかり衰弱している。ラグはつきっきりで世話をしていた。
 リウは聞いた。
「イルはどうだ?」
 少し、赤みのさした頬を指差して、ラグが笑った。
「ほら、見てみろ!顔色がもどってきた。助かるぞ!待ってな!今湯を飲ませてやる。」
「ほんとだ。よかった・・。」
 そう言って腰を降ろしたリウの目に、思わぬものが映った。
「ラグ!!!」
 血相を変えてラグのところに詰め寄り、胸ぐらを掴む。
「これは何だ!」
 リウの手に夕陽の色をしたうろこが光っている。
 ラグは揺すられるまま絶句していた。
「ララを!食わせたのか!ララだっ!これはララだっ!!」
「血を・・。飲ませた。」
「殺したのかーっ!!ララをっ!!」
 殴った。
 やせて、もう、ろくに力などなさそうに見える細い腕で、自分よりもずっと大きなラグを殴り倒した。
「ちくしょう!ちくしょう!」
 殴り続ける。
 サリとレモが飛んで来た。
「リウ!やめて!ラグが死んじゃう!」
「わああああああーーーー!!!」
 リウは地面につっぷして号泣した。
[ある]
「うっうっうっ・・。」
[あるんだ。リウ]
「ウウ・・。」
[泉]
「・・。」
 リウは気がついた。さっきから語りかける『声』に。
 立ち上がった。そして、よろけるように泉に走った。
「ララ!?」
 そこに、夕陽の色はなかった。
 替わりに昼の光が何かに当たってキラキラと輝いていた。そっと、泉の底に手を伸ばして、それを拾い上げた。
「玉石!」
[目に見えるものにこだわるな。リウ]
「ララなのか!」
[ララはもう往く。満足だ。なくなりはしない。知ってるだろ?目に見えるものがすべてじゃない。]
「ララ!往かないでくれ!オレのそばにいてくれ!お前の声だったのか?さっきの声は!」
[姿も声もなくともおまえとともにある]

 リウはつき物が落ちたようになって、ラグの元へともどった。言葉は出さないが、介抱する手が静かだった。
「すまねえ。イルを死なせたくなかったんだ・・。」
 ラグは自分の血で咳き込みながら、リウに謝った。
「オレに謝るんじゃなく、ララに感謝しろ。」
 それだけ低い声でつぶやいた。
(ララ・・。お前はお前のいのちでイルを生かしたんだな。)
 そして、深い吐息を吐いた。
(お前はつとめを果たしていったのか・・?オレはどうすればいい?)

 玉石を手にすると不思議に内側が澄むのを感じた。
(聖エトナの中心だといっていた。つまり、これも兄の心、か?)
 リウは玉石を小さな袋に入れてそれを首からつるした。胸の真ん中に下げられたそれは、胸に詰まった澱のような固まりを少しづつ融かしていくようだった。
 息が通るようになった。
 すると胸の奥にまるではるかかなただったようなあの感覚がよみがえってきた。
(泉が湧いている・・。オレにもまだあったのか・・。この泉が・・。)
2006.08.30 Wednesday * 06:29 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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2008.07.25 Friday * 06:29 | - | - | -
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