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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 35:冬
 リウはその夜ぐっすり寝込んだ。
 起きるとジウが病人の洗濯を干していた。
「ありがとう。ずいぶん楽になった。」
 ジウは笑うと、リウに言った。
「あんたも治ったら人にしてやりな。手はいくらあっても足りない。」
 うなずくとリウは尋ねた。
「医術の心得があるのか?」
「いや。わたしはここの洗濯婦だ。施薬師も施術師も地滑りでいなくなった。」
「ジウの他には?」
「少しはましなものが重いものの面倒をみてる。だが、死ぬ者が多くて追いつかない・・。」
 そう言ってジウは顔を曇らせた。
「死んだ者は焼かないと腐ってさらに周りの者が死ぬ。だが、それをする手も足りないんだ。」
「・・。手伝うよ。」
 リウとイルは人を焼く仕事をした。裏庭にはうず高く死人が積まれ、一日中たまらない臭いがしていた。
 人を焼く炎を見つめながら、イルは誰に言うでもなくつぶやいた。
「こういうのを地獄っていうのかな・・。」
 リウとイルの瞳には、焚きあがる炎が映って紅くゆらめいていた。

 アタはまだ片腕しか使えないが驚くほどよく働いた。あまり物を言わなくなったが、物をよく言うアタよりも今の方がいいとリウもイルも思った。
 リウは食べ物を探すためにレモのところにもどった。レモは食べられる草を驚くほどよく知っている。
「川沿いに、いたち草がたくさん生えてるハズだよ。葉はとろみが出て、スウプにすればたくさんの人で分け合える。根っこは摺りおろして傷につけるといいんだ。」
「ありがとう探してみる。」
「今はまだ森にも実のなる木があるし、食べられる草もあるけど、もうすぐ冬が来るから今のうちに木の実を集めておかないと、冬が越せないよ。リウ。」
「わかった。いたち草をつんだらこっちを手伝う。」
 相手はエケネンでも誰でもなく、ただ生きのびるための闘いがリウたちを捕らえようとしていた。

 エケネンの盗賊団以外はまるで人ではないような暮らしをしていた。
 冬は容赦なくやってきて、貯えを奪い取られた人々はなすすべもなくいのちを潰えていく。
 ジウのいる施薬院は人が減る一方だった。
 きのうは息をしていた人間が、今日はしかばねとなっている。
 死人に慣れていった。
 リウはやがて、自分の中にその度に底冷えのするような想いが降り積もってゆくのを感じていた。
(ひとり減った。助かった・・。)
(何を考えているんだ。オレは・・。)
 凍てつく寒空の下で洗濯をして、千切れるようなあかぎれの痛みに、ため息をついた。
 桶の水に自分の顔が映っている。
 目が窪み、鼻が曲がった顔は醜かった。
(オレは醜い。自分は助かりたいと思っているんだ。自分だけは。)
 どんな空腹よりも無力感がリウを追い詰めていた。
(最後の心?最後には心もなくなる・・。そうなったらおしまいだ。ただ、おしまいになるだけだ・・。)
[リウ]
 ずっと、聞こえなかった『声』が聞こえた。
 リウは天を仰いだ。
「・・忘れていた。まだ、オレを見守っているのか?見てるだろう?オレはもうだめだ。」
[玉石]
「・・ああ、ケニにやられた時に失くした。」
[ある]
「なんだって?・・でもいい。もういいんだ・・。ほっといてくれ。」
2006.08.29 Tuesday * 13:19 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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