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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 34:火
 翌朝。抜けるような青空の下。
「このままじゃいけない・・。」
 まきを割っていたイルがリウを振り返った。
「なんだって?」
「オレは街に行く。」
「まだ、治り切ってないだろう。無理するな。」
「ここにいるとオレが滑った意味を忘れそうになる。」
「滑った意味?」
「滑るのには意味があるんだ。オレは骨の痛みや森の暮らしにかまけてそれを忘れてゆこうとする。兄のくにに至る最後の心を見つけなくちゃならないのに。でなければ、ここはいつまでも弟のくにだ。オレはいつまでもイナやカリフに会えないんだ。」
「だが、おまえがやることはないだろう?だれかがやるさ。」
「だめだ、イル。その隙間に『冷え』は忍び込むんだ。エケネンの元にいなくとも、自分でそれを招き寄せて世界全体で沈み込んでいく。兄のくににけっして到れなくなる。オレの火が消えないうちに前へ進む。」
「待て!お前の火だけで世界が燃えるもんか!今度こそ死ぬぞ!」
「放っておいたら心が死ぬ。」

「じゃ、行く。」
 リウは固マムを少しとマントを身につけると、ラグたちに告げた。
 ラグはため息をついて見送った。
「酒は飲むなよ、イル。」
 森から街へ出るのでさほどかからない。リウたちは日が暮れてから街に潜り込んだ。
 最近リウは咳き込むようになっていた。
「だいじょうぶか?」
「冷えたんだ。」
「しばらく街の様子を見よう。」
「ああ。」
「あれからふた月でまたなんだかすさんだな。」
 燃えてしまった店や、道端で死んでいる者。うろつく浮浪児の姿が増えていた。
 ふたりはしばらく路地から路地へと見て廻り、それからエケネンの根城を遠巻きにした。
 すると、そっちの方からふらつきながら走ってくる細い影があった。
「あれは、アタじゃないのか?」
「ああ、そうだ。あいつだ。」
 アタの服はボロボロで、髪はざんばらだった。顔は青く、あざがある。
 リウは思わず、アタの前に出た。
「どうしたんだ?いったい何があった?」
 アタはギロッと見つめると、顔を背けた。
「怪我してるじゃないか?」
 リウが腕をつかむと悲鳴をあげた。
「痛たたた!折れてるんだ。触るんじゃない!」
 ふたりは廃屋にアタを導き入れ、腕に添え木をして手当てした。
 追っ手が通り過ぎた。
「ダルはどうした?ダルに助けてもらえ。」
「あいつがあたしを売ったんだ!」
「えっ?」
 リウとイルは同時に声をあげた。
「ちょっとヘマしただけじゃないか!なのにあいつはあたしを裏の慰み宿に売り飛ばしたんだ!」
「なんだって!」
「そうしないと自分がエケネンに袋だたきにあうからだ。えっえっ・・。」泣き出した。
「逃げたのか?」
「逃げようとして髪をつかまれて切り刻まれた。2階から飛び下りた時に腕を折った。」
 ふたりはため息をついた。
「どうする?」
 リウはしばらく考えて、
「施薬院へ行こう。」
 とふたりをうながした。
 夜が更けるのを待って、アタを連れて施薬院へ向かった。
 月光がマントをかぶったリウの顔を照らす。
「あんた、顔が変わってるよ?リウだろ?殴られたのか?」
「ああ、たいしたことない。」
 施薬院にはさらに病人が増えていた。だが薬もなく、ただうめいて死んでいくのを待っているのが大半だった。
 リウたちはとりあえず病人の中に紛れることでアタをかくまおうとした。
「見ろ。」
 イルがあごで示した。
「あの人だ。」
 以前ダルたちと踏み込んだ時に逆らった老女が、病人の世話をしていた。
「からだはいいのか?」
 リウの声に気づくと、老女は笑った。
「あんたかい?まあ、だましだましやってるよ。その子はどうしたんだい?」
「怪我してる。おいてもらえないだろうか?」
「もうほとんど食べ物もないが・・。空いているところに眠ることだけはできる。」
「手伝えることはする。食べ物を探してこよう。」
「お待ち。顔をお見せ。」
 そう言って老女はリウのマントをぬがせた。
「ひどい怪我だ。無理するんじゃない。」
「この中ではましな方だ。あんただってそうだろ?」
「ジウだ。いいからここに座りなさい。」
 ジウはそう言ってリウを座らせると、背中をさすり始めた。
「薬はないからね。こうやってさすれるものがさすっている。あんたあばらを折ったろう?」
「リウだ。なぜわかる?」
「肺に骨のかけらがささって、咳き込むんじゃないかい?息がそんな息だよ。」
「不思議だ。痛みがやわらいだ。」
「今夜はもう寝なさい。すべては明日だ。」
2006.08.28 Monday * 12:33 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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