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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 32:痛み
「イル・・イル・・。どうしたの?来て!イルだよ!」
 サリが大声をあげた。
 扉が閉まる音がした。
 イルは顔を上げて、そこがイスキニの森になっているのを見た。
「どうしたんだ、誰だ?」
 ラグがやってきた。
「イル!!うっ・・。これはリウじゃないか?ひどくやられたな・・。泉のそばへ運べ。傷を冷やそう。」

 リウはしばらく起きあがれなかった。左目の視力がほとんど失くなって、鼻の骨やあばらも折れていた。
「べっぴんが台無しだ。なあ。」
 ラグはそう言ってリウを笑わせた。
「くっくっ。痛い・・。」
「そうか、リウは女だったな。」
 イルもリウを元気づけるように軽口をたたいた。
 だが、リウは地滑りが起きてからこんなに心が平和だったことはなかった。
 空が青い。
 力に力で歯向かわなかったのは初めてだ。
(オレは初めてそれを選んだんだ。勝ったんだ。)
[何に?]
(自分にだ。)
[ふふふふ。思うそばから負けている。]
(ララ・・。)
[ほんとの強さは勝ち負けじゃない。]
(そうか・・。)
[そうだ。]

 随分しばらくして起きあがれるようになって、リウは森を少しずつ歩くようになった。まだ、走るとあちこちが痛む。
 だが、歩くと足元の花がよく見えた。
(オレは走ってばかりいたから、花なんてよく見たことがなかった・・。)
 レモが教えてくれた。
「それは竜飛草だよ。葉っぱが竜が飛んでいるみたいな形でしょ?花は黄色くてかわいいね。赤い実がなるよ。」
 花に見とれ、空に浮かぶ白い雲を見ていると、地滑りのことを忘れてしまいそうになる。
(ここでこうしてひっそり暮らせば、暮らせないこともない・・。)
 リウはふとそう思った。
 森には食べられる実のなる木もあり、せせらぎもある。暮らしていくには好都合だ。  
 街に近いので夜盗をおそれたが、今はいざとなれば遺跡に通ずる扉があるのでそこへ逃げ込めばよかった。

 だが、ふた月経とうとしても、リウの折れたあばらの痛みはなかなか引かなかった。
 痛みのせいで気がふさがる日もあった。ひどくふさぐ時はサリの無邪気さすら気にさわってしまう。
「リウ。ぼくらこうしてラグやイルやレモとこの森でずっと暮らしてけるといいね。」
「・・のんきなこと言うな!」
 そんなつもりはなかったのに口を開くと思わず声を荒げてしまう。
 サリはびっくりして声をひそめた。
「ちょっと言ってみただけだよ。」
 リウは自分でも驚いてあやまった。
「すまない・・。」
(オレだってそう思っているくせに・・。)
 痛みのせいで動きづらいことがだんだんにリウに言い知れぬ新たないらだちを生み出してきていた。
2006.08.26 Saturday * 06:57 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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