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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 16:司祭宮
 朝が来て、昨日のことは夢であって欲しいと願いながら起き上がった。朝食を作っている気配がした。
「おはよう。」
「おはよう。」
 タリではなく、レモが朝食を並べていた。
 麦粉で手のひらくらいの大きさに薄く焼いたマムが何枚も皿の上に重ねられていた。
「お昼の分も焼いておいたよ。」
 そういってひっそり笑うレモの顔は、今までに見たことがないくらいやわらかかった。
 もしかしたら、2年ぶりによく眠れたのかもしれない。
 リウはそう思うと、胸の奥がかすかに切なく痛んだ。
 相変わらずねぼすけなサリを起こすと、テーブルを囲んだ。
「ぼく、思ったんだけどさ、司祭宮はどうなってるかな?」
 サリがマムをほおばりながら無頓着にそう言う。
 リウはハッとした。レモも気がついたように、つぶやいた。
「そっか、『永遠の光』はあそこにあるのかな?地滑りが起きても。」
「行ってみるか。」
 ふたりはそう言うリウの顔を見た。

 1日しか経っていないのに、街はどこかさびれた殺伐とした空気がただよっていた。サリとレモは敏感に感じ取って、怖がっていた。
 司祭宮の厚い扉は閉まっている。
 レモがリウの袖を引っ張った。
「たしかこっちに司祭宮の下働きの人の出入りする小さな扉があったよ。」
 細い路地に入って司祭宮の建物を回り込むと、なるほど、確かに小さな扉がある。
「なんで知っているんだ?」
「お使いで市場に来た時にここに人が出入りするのを見たんだ。」
「開いた。」
「入れる?」
「入れるぞ。」
 中の気配が少し違う。人が踏み荒らした跡がある。気がつけば、この小さな扉の鍵も壊されていた。
「もう、ここにも人が踏み込んでる。気をつけろ。」
 中庭に酒瓶が転がっていた。誰かがここで酒盛りをしたようだ。
 内なる回廊の扉にたどりつくと、押した。
大きな錠前がかかってびくともしない。さすがにここにはまだ人は入り込めないようだ。
「塔には行けないのかな?」
「鍵を探せばいい。どこかにあるハズだ。」
 いつもなら司祭に制止されて入れない司祭宮の奥の扉を次々に開けていった。控えの間、書物庫、台所、執務室・・。
「ないな。」
「あるとしたら司祭の間だよ。いつも司祭が持ってるんだから。」
「あっちの奥じゃないか?まだ見てない。」
「ここだ、他と違う。立派な扉だ。」
 昼だというのにその部屋の中は暗かった。
「灯りが欲しいな。」
「気をつけろ。」
「わっ!」
 サリが何かにつまずいて転んだ。
「誰だ!」
 しわがれた低い声が響いた。
「イル!扉を閉めろ!」
 入ってきた扉が閉まる音がして、燭台に灯が灯された。
 3人の目の前にあから顔の白髪頭と、若いのに白髪のひょろ長い男が浮かび上がった。
「盗人か?子供じゃねえか。」
「ぼくたち泥棒じゃありません!永遠の光が無事かどうか見に来ただけです!」
 サリが叫んだ。
「どうだか。地滑りが起きりゃ、なんでもありよ。オーネン様がいなくなっちまえば、ここは廃虚さ。」
「あんたここの人?」
 リウはあから顔の男に聞いた。
「ここもしまいよ。俺らはもうおさらばしようと思ってるところよ。」
 リウはめざとく床に散らばった薬瓶を見てとった。
「レモ!中庭でアカシの根を抜いてこい!」
 そう叫ぶと扉に体当たりしてレモを突き飛ばすように外に出した。
「何しやがる!じっとしてねえか!」
 そういってつかみかかろうとするが、力が抜けてあから顔の男は座り込んでしまった。
「父さん!」
 イルと呼ばれた男は、父親を支えようとしたが、自分も倒れこんでしまった。

 白髪頭の親子は大きないびきを立てて眠っている。
「大丈夫なの?」
 サリが不安そうに聞いた。
「アカシの根は毒消しだ。さっき吐いたから大丈夫だ。」
「死のうとしてたね。」
 レモが真面目な顔をしてつぶやいた。
「地滑りはいろんなことが起こる。絶望して死にたくなるものもいるんだ。」
「どうする?」
「ほっておくわけにもいかないだろう。しばらくいるさ。」
 3人は持って来たマムを黙々と頬張った。
2006.08.10 Thursday * 12:42 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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