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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 14:街
 家にもどるとリウとサリは何をするという気にもなれず、テーブルのそばの椅子に座り込んでしまった。
 初めに動きだしたのはレモだった。瓶から水を汲み、火を起こし、気がついたら角ヤギのミルクを入れたお茶を入れていた。
 リウは少し驚いて、思わずつぶやいた。
「旨いな。」
 レモは少し恥ずかしそうに、でもほんとうにうれしそうに笑った。
「いつも入れているのか?」
「うん。台所仕事はぼくの仕事だから。でも、一度も旨いなんて言われたことないよ。」
「そうなのか?」
 リウはあたたかいお茶を飲みながら、こころが少し落ち着いてきたのを感じていた。
「学問所にはこれからは行かなくてもいいの?」
 サリが聞いてきた。
「しかたないだろう。先生がいないんだ。」
「ぼくら、どうする?」
「とにかく、食べていくために働くさ。」
 そういってリウは立ち上がった。
「レモは台所をまかせる。サリは角ヤギの世話をしてくれ。オレは街の様子を見てくる。」
 リウは戸棚の奥の小さな壷を探った。
(あった。)
 母さんが、いつも銀貨を入れておくところにそれはちゃんとあった。
「麦粉も手に入れてくる。もうなかったから。」
 そういってリウは家を出た。

 街は何も変わっていなかった。人が少ないことをのぞけば。
 麦屋に入った。人がいない。
「すみません!誰かいませんか!」
 いきなり後ろから突き飛ばされた。
「どけ!」
 ひげ面の貧相な顔の男が目をぎらぎらさせて店の中を見回すと、いきなりそこにあった麦袋をふた袋かついで機嫌の悪い顔のまま無言で店から出ていった。
 リウが何かを言う暇もなくそれに続いて4、5人の男や女が店になだれ込み、同じように麦袋をかついで足早に逃げていく。
「おい!何するんだ!」
「待て!」
 手をつかんだ女に横っつらをはたかれた。
「泥棒!」
 叫んだが無駄だった。
 気がつくとあちこちでグラスの割れる音がする。
 外に出てみると、同じように店主のいなくなった店から品物を盗んでいく人々が目に入った。なかには、店主がいる店も襲われているところもある。
(なんなんだ!ペキニの街が急に荒れ出した!)
 だが、リウも麦粉を持って帰らなければならない。
 店の奥の銀貨入れを探した。見えにくいところに置いてあったそれをやっと見つけると、それに自分の持ってきた銀貨を入れて、さらに隠した。
 そして、麦袋をひとつかつぐと駆け出した。
(地滑りってこういうことなのか!?)

 自分の家に続く坂道の途中で、リウは麦粉の重さに耐えかねて、袋を下ろすと一息ついた。
 汗をぬぐいながら、これからのことを思って心が暗くなった。
(兄が来る前のペキニに一気にもどったみたいだ。)
 担ぎ直して歩き始める。
(オレは強くならなくちゃいけない。強くならなくちゃ・・・。)
 カリフの言葉を思い出した。
『本当の強さを知った時、これも引けるようになる。』
(強くなるしかない。生き抜くために。)
 家にもどると、レモは昼食のスウプを煮ていた。サリは牧に行って角ヤギの面倒をみているようだ。
「おかえりなさい。どうしたの?」
 レモがめざとくリウの赤くなった頬を見て言った。
「なんでもない。麦をここに置くからな。ちょっと弓を引いてくる。」
 そう言って立て掛けてあった弓と矢をつかむと、家の裏手の丘を登った。そこに板で作った的を置いてある。
 最近ようやく少し弓を引くまでにはなってきたが、まだなかなか的には当たらない。
 さっき見た光景を打ち消すように、リウは何回も何回も何回も弓を引いてみた。
 まだ、弓が引き切れていないし、こころが定まっていないから、矢は的にかすりもしない。何回やったか分からない頃、サリが呼ぶ声が聞こえた。
「リウ!スウプができたよ!食べようよ!」
 リウは家にもどると少し痛みを覚える腕に気がついてさすりながら、テーブルについた。
「街はどうだった?」
 サリが無邪気に聞く。
「・・・。サリ、レモ、いいか、これからは何があってもおかしくないと思え。戸締まりはしっかりしろ。ひとりで街に行くな。」
「・・・。」
 ふたりは不安げに顔を見合わせた。
 しばらく3人とも無言でスウプをすする。
 サリが気がついたように言った。
「この緑の葉っぱはなに?」
「それは夏キリだよ。リウの家のまわりにはいっぱい生えているよ。」
「え?」
 リウは顔をあげた。
「夏も終わりかけの今頃には白い花が咲くんだ。生えている時は匂いがあるけど、煮るとしないでしょ?夏の疲れをとるんだよ。」
 レモはちょっと恥ずかしそうにでもしっかりとしゃべった。
「知らなかった。食べられるのか。」
「レモってそういうこと詳しいんだね。どうしてそんなこと知ってるの?」
「死んだおじいちゃんに教わったんだ。」
「レモはいつからケニのところに行ったんだ?」
 リウは聞いた。
「おじいちゃんが亡くなってからだから、2年かな・・。」
「ケニの家はおじさんが乱暴でおばさんもきついって評判だ。ケニはもう学問所は卒業したけど、下級生をよくいじめてた。ずいぶんいじめられたんじゃないのか?」
 レモは黙った。
 サリがなぐさめるように言った。
「ここにいればいいさ。レモ、こんなに料理がうまいなんてびっくりしたよ。ぼくうれしいな。」
 リウもレモも笑った。
2006.08.08 Tuesday * 14:02 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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