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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 13:その日
 夢も見ずに寝た。
 朝になって、寝床から飛び起きると、銀の角ヤギの乳を飲んで、学問所の本をつかんで家を出た。
 しばらくそこにたたずんだが、イナの家に向かった。
「イナ!」
 イナの家はしんとしていた。
 裏にまわって窓から覗いてみた。
 人の気配がない。
 リウは背中から血の気が引くような想いにとらわれたが、言い聞かせた。
(あわてるな。まだ、そうと決まったわけじゃない。)
 気持ちを奮い立たせて走った。
「サリ!」
 サリの家の扉は開いていた。
 おじさんとおばさんの姿はない。飛びつくようにサリの部屋の扉の取っ手をつかんだ。
「サリ!」
 寝床にいつものように寝坊したサリのねぼけ顔があった。
「サリ!起きろ!イナがいない!おまえの父さんと母さんは?」
「どうしたの?」
「地滑りじゃないのか!?」
「ええっ?」
「いいから、着替えろ!学問所へ行く!」
 サリはあわててズボンがはけなかった。
 リウはそれを手伝いながら、自分に言い聞かせた。
(起こってもおかしくないんだ。落ち着け。落ち着くんだ。)
 ふたりは走った。
 サリは足がもつれて2回転んだ。
 風景はちっとも変わらない。坂道の向こうに学問所の建物が見えて来た。
 生徒たちが何人か集まっていた。
「ハス先生は?カリフは?」
 先に来ていた生徒に聞いた。
 みな首を振る。たまらずに泣き始めた者もいる。
 リウはもうわかっていながらも、じっとしていられなくて学問所をくまなく歩き回った。
 サリとレモがついてくる。
 もう、どこにも行くところがなくなって、最後についに、リウは講議堂の大部屋の椅子に倒れ込むように腰を下ろした。
 サリもそばに座り込み、レモは立ち尽くしている。
 そこにいたアタが冷ややかに言った。
「あきらめがわるいよ、あんた。もう、なっちまったもんはしょうがないだろ。」
 それには答えず、リウはじっと前を見つめていた。
「どうせ先生がいないんなら、学問所に来ることもなかった。あたしは帰る。」
 アタはそういってひとり、学問所を出て行った。
 サリが聞く。
「どうする?リウ。」
 レモも不安そうに見つめている。
 リウはレモの方を振り返って聞いた。
「おまえんちはひとがいるか?」
 レモはうなずく。
「おじさんも、おばさんも、いとこのケニもか?」
 青い顔をしてうなずく。
「なら帰れ。」
 レモは首を振った。
「なんで?」
 レモは少し震えながらかすれた声でやっと言った。
「帰りたくない。」
「だから、なんで?」
「先生たちがいなくなったらまた殴られる。」
「そうなのか?」
 レモはうなずく。
「リウ、ぼくんちも誰もいないから、リウのとこ行っていい?」
 サリが心細気に言う。
「レモもかわいそうだから、一緒に行こうよ。」
 リウはしばらく返事をしなかった。
 やがて立ち上がると黙って歩き出した。
「リウ!」
 サリが呼び止める。
「リウ待ってよ!」
 肩ごしにリウは愛想なく言葉を投げてよこした。
「勝手にしな。」
 学問所をあとにしながら、リウは思っていた。
(ほんとに、兄たちはきれいさっぱり消えた・・。残ったのは弟ばかりだ・・。)
 両手から力が萎えて抜けてゆくようだった。哀しみと不安が固まりとなって詰まって胸が苦しい。
「リウ!」
 見上げるサリの顔が目に入った。リウは自分を奮い立たせるように少し笑って返した。
「なんだ?」
「だいじょうぶさ!だいじょうぶだよ。きっとやってけるよ!」
 今度はほんとに笑った。サリの根拠のない勇気づけ方が可笑しかった。
「そうだな。」
 返事した。
 立ち止まるとずいぶんうしろから遠慮がちについてくるレモに声をかけた。
「置いてくぞ!」
 レモの顔がほっとゆるんで、駆けてきた。
 学問所の道を下りながら、リウはふいにあふれくる涙をぬぐった。
(イナ。おまえはほんとにいいやつだった。おまえが兄であること、ずっと分かってた。
オレ、母さんやおまえにもう一度会いたい。カリフ先生に会いたい。待っててくれ。きっときっとそこへいくから。)
 サリとレモはリウが泣くのを初めて見た。
ふたりとも、事の大きさに言葉少なくなりながら、ただ懸命に足の速いリウについていった。
2006.08.07 Monday * 12:58 | Story | comments(7) | trackbacks(0)
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2008.07.25 Friday * 12:58 | - | - | -
Comment
いつも、楽しみに読ませていただいています。
カリフ先生が出てきてから、更にワクワク読ませていただいてましたが、最近では、地滑り後、ほんとに兄の国へたどり着けるのか、心細くも、強く期待しています。
日頃、いろんな人に頼っているので、地滑りの起こった後のリウたちのとまどいは、身につまされました。私にも、たくさんの「兄」がヒントをくれていると思うので、道を探しながら進んでいきたい。
| ていてい | 2006/08/10 8:06 AM |
うれしいです!リウを信じてご期待ください!実は兄の民とは南米コロンビアの北部、サンタ・マルタ山地の先住民がモデルです。実在の民の世界観からきています。厳しい歴史を歩んでいますが、誇り高く謙虚な民です。今そんな民が実在していることに発想を得ました。なおかつ、見えない兄の民、仏教でいうところの諸仏もイメージしています。
| Iwasawa Kumi | 2006/08/10 3:38 PM |
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| - | 2011/05/05 8:44 AM |
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| - | 2011/06/24 11:53 PM |
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| - | 2011/08/27 1:39 PM |









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