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2008.07.25 Friday * | - | - | -
* 11:最後の心
 久しぶりに司祭宮の授業がある。
 リウは4ヶ月前、恐くて聞けなかったことを受け止める準備ができた。
 みんな以前よりも少し大人びた目をして、司祭宮の広間に集まっていた。
 司祭の案内で、さっそく金属の扉が開かれる。
 長い長い『内なる回廊』をたどりながら、リウたちはここに再び来るまでの自分に向き合っていた。
(もう、いつ地滑りが起こってもおかしくないんだ・・。)
 清めの間にはすでにタイラオラ・オーネンがいて、両手をあげて生徒たちを迎えてくれた。
「よくきた。よくきた。さあ、ここへ。」
 また、ひとりひとりの顔を見つめながら慈愛深い笑顔を浮かべ、聖水で清めていく。
 リウの番がきた時、リウの口から思わず言葉がついて出た。
「どうすれば兄のくにに到れるんですか?」
 だが、オーネンはそれには答えず、深くうなずいた。
 すべての者の清めが終わると、無言で塔を昇り始める。
 リウは、地滑りを知る前の自分をちょっと切なく思い出しながら、ペキニの街の景色をまぶしく望んだ。
 牛牙の扉が開かれる。
 4ヶ月前よりも金色がまぶしく、虹色も鮮やかだった。透き通ることはない。
「おそらく、地滑りの前にここへ来ることはこれで最後であろう。そなたたちに言っておこう。地滑りが起こっても、まるで世界は変わらないかのように見えるだろう。ただ、兄たちが消えるだけだ。それと同じことが兄たちにも起こる。弟たちが消える。同じ世界の次元がずれてしまう。だがお互いは存在し続けている。兄は自分を空にして次元を合わせれば弟の姿は見える。だが、弟は兄にならなければそれはむつかしい。だが、色々な感覚を通して兄のメッセージを受け取るだろう。その気になるならばな。そなたは問うた。」
 そういってオーネンはリウを見た。
「どうすれば兄のくにに到れるか、と。」
「はい。」
「そなたの心の底の底の、本当の奥底の心に至った時がその時だ。」
「?」
「それを、『最後の心』という。」
「『最後の心』?」
「ひとには何万、何億の心があるという。瞬間瞬間湧き出づるそのあらゆる心の一番奥にあるすべての心を束ね、すべての心を捨ててなお最後に残るという究極の心だ。それは何にも侵されることはなく、たとえ死んでもなくならない。」
「最後の心・・。」
「それを見つけた時、奇跡は起こるであろう。それはそなたひとりのみならず、弟のくに全体の次元を引き上げることになる。ひとりでも最後の心に至るなら同胞である弟たちの心にそれは響き渡るのだ。それが本当の最後の心だ。それは地滑りのように目には見えぬ。だが、弟たちは事が起こったことを悟るであろう、兄たちの姿を目の前にして。それが、つまり、兄のくにに到るということだ。」
 生徒たちは言葉もなく静まり返った。
 オーネンの授業は終わった。最後にオーネンは子供を送りだす親のようにひとりひとりと抱擁した。
 みんなが扉を出て、最後にリウはひとり振り返って聞いた。
「カリフ先生をご存じですか?」
「ああ。」
 オーネンは微笑みながらうなずいた。
「オーネン司祭のつてでペキニに来たと聞きました。カリフ先生は本当に人をその・・。」
 オーネンはリウのそばに寄って瞳の奥を覗き込むようにして言った。
「わたしはカリフだから呼んだのだ。彼ほど先生にむいている者はいない。そうだろう?」
 リウはうなずく。
「ペキニの墓所で、カリフという名の墓に祈るカリフを見ました。あれは・・。」
「それが彼が殺めた相手だ。彼はその名を背負って生きることにした。闇を知らぬ者は光も知ることができぬ。彼の深い傷は他の者の傷を癒すであろう。」
2006.08.05 Saturday * 08:10 | Story | comments(0) | trackbacks(0)
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